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なぜオウンドメディアが必要か Why you Need to Launch Your Owned Media

一般に、企業の広報活動は、1)メディア企業・団体が運営するメディアに対してプレスリリースを打つ、2)メディアに広告を掲載する、3)ソーシャルメディアを広告的に活用する、という方法があるが、1)は(知名度が低い企業の場合)採用・記事化される確率が低く、2)は確実に掲載されるが莫大な費用が必要で、かつ効果が不透明、3)は極めて安上がりだがその中にターゲットがほとんどいないことが多い、という課題を抱えている。であれば自分(の会社)でメディアを作ってしまえば良いではないかというのが(いわゆる)オウンドメディアだ。新聞とテレビに代表される古典的メディアの知性と影響力の劣化がこの動きに拍車をかけている。

ただし、顧客候補が不特定多数の消費者の場合はコスト割れすることが多い。むしろ(凋落しつつあるが)伝統的なPR手法、例えばテレビCMなどのほうが顧客獲得単価(Cost Per Order)は小さくなるはずである。またそれが“メディア”であることを標榜するのであれば、運営上のキーポイントは信頼性と中立性(の演出)にあるので、これが理解できない企業はオウンドメディアを開発しないほうが良い。結果的に、特定の専門家向けの小さなメディアこそがオウンドメディアにふさわしい。オウンドメディアは基本的にB2Bコミュニケーションのための道具である。

オウンドメディアの目的

オウンドメディアの目的は、確度の高い潜在顧客(Lead)との安定的・長期的リレーションをなるべく安価に確保・育成する(Lead Generation)ことに尽きる。コーポレートブランディングに寄与することもないわけではないが、気が遠くなるような時間を必要とするので、これは獲得できるかどうかが不明な副次的な成果程度に考えておいた方が良い。また、ソーシャルメディアからたまたま飛んできたユーザーが当該メディアのリードになる可能性は極めて低いので、ページビュー(PV)やユニークユーザー数(UU)などはKPIにしないほうが無難だ。これに比べるとオーガニック検索でたまたまやってきたユーザーはロイヤルティ(Loyalty)が高いケースが多い。また、そのメディアが自分に必要かどうかをクールに判断してくれる人だけをターゲットにすれば良いという意味では、当該メディアが発行することになるはずのメールマガジンの読者数だけがKGI(Key Goal Indicator)になる。メルマガはhtmlメール、レスポンシブ前提、週に1回程度の発行で十分だ。ユーザーの80%以上はスマホでこのメールを閲覧するはずである。

言論の中立性

オウンドメディアで最も必要とされるのは言論や内容の中立性(neutrality)だ。中立とは「関係するすべてのものを公平に扱う、偏りがない状態」ということなので、厳密には実装不能である。価値の中立性は自然科学の中にしか存在しない(さらに付け加えれば、発見は中立性が高いが、発明はかなり恣意的である)。あくまで「中立を目指そうとする姿勢」を示すだけで良い(最低限でも「これはPRではなさそうだ」とユーザーに認識される編集作業が必要になる)。したがってコーポレートサイトの中に「読み物のコーナー」を設置してもオウンドメディアにはならないし、別ドメインにそれらしきものを作ったとしても、それが第三者による制作物でない場合は、広報誌の域を超えるのは難しい。例えば、味の素がレシピサイトを作ったとしよう。味の素自体はおそらく中立的で高品質なレシピを作る力のある企業だし、実際それをコンテンツとして公開している。しかし、どこまで味の素が高品質で中立的で真摯なレシピを作っても、ユーザーは「これはやはりどこかで(商品としての)味の素を使え、というメッセージが含まれているはず」という穿った見方をしてしまう。「その企業がそのメディアを運営するのは極めて自然な行為」と認識されるもので信頼性の高いオウンドメディアを作るのは意外と難しいのである。自前で用意できる自信のある企業ほどこのオウンドメディアのトラップ(罠)にハマることになる。比較的最近の事例だとトヨタが運営するトヨタイムズがこれに近い。彼らはこれをメディアだと主張するが、メディアを運営する立場からすればこれは隅から隅まで単なる広告である(ただしトヨタファンにはメディアに見えるかもしれない)。「香川編集長」はカネの力にモノを言わせているだけ、という恥ずかしいメッセージ以上のものにはならない(それを理解した上で意図的に実施しているはずだが)。

社長だけが実施の可否を判断できる

オウンドメディア開発の依頼主である企業サイドの担当者が広報部長や宣伝部長の場合は、この「価値中立性の演出によるユーザーとの信頼関係構築」の意図が理解できないことが多いので、打ち合わせは即刻中止した方が良い。古典的なPR・広告手法にどっぷり浸かってきた大企業の担当者ほど自らが公共空間を作ってきたという根拠のない自負があるのでタチが悪い。オウンドメディアの開発は、当該企業が具体的にどのような形で社会に貢献しようと考えているかという思想(philosophy)とそのメディアの編集方針を深いところで擦り合わせる必要がある。このような面倒臭いことを考えているのは通常社長だけ(もう一人いるとすればマーケティング担当取締役)なので、社長と打ち合わせをするのが手っ取り早い。この合意形成のためにたっぷり時間を使うのが良質なオウンドメディア作りの第一歩になる。オウンドメディア上ではPRゾーンと中立記事ゾーンを明確に分ける。前者では直近の営利を目的としたPRを自在に展開できるし、後者では深いところでの思想を中立的に伝えることができる、ということになる。

経時劣化の激しいコンテンツは必要最低限に

記事で重要なのは「繰り返し参照される可能性の高いもの」を中心に据えることだ。その意味で最も効率が悪いのが(いわゆる)ニュースであり、形式として有効なのは用語解説(Glossary)に類するものだろう。ただしwikipediaと明確に差別化できる用語解説を実施する必要がある。また「記事」と言いつつも、テキストの重要性は相対的には低下していて、むしろ動画や音声で感覚的に理解していただく局面が増えているので、このオウンドメディアと連動するYoutubeチャネルの設置は必須である。記事本数は平日毎日1本(月20本)程度作成することが望ましいが、(影響力を行使できるようになるまでにかなり時間がかかるが)予算が少ない場合は週に1本(月4本)程度でも良い(ただし、この場合の1本はかなりナラティブ(narrative)な長尺の解説記事にしたほうが良い)。また、メディアは時計の代わりに使われるようなところがある。メディアはユーザーにリズムを提供する義務がある。リアルタイム、デイリー、ウイークリー、マンスリーなどの更新頻度自体でメディアは区別されるが、ユーザーからはウイークリーくらいの更新のほうが、過不足なくありがたい、と思うことが多いはずだ。ともあれオウンドメディアは中核となるウエブサイトだけではなく、ソーシャルメディア連携、メールマガジン(newsletters)、音声系の出力(e.g. podcasts)、映像(video)、調査(research)、イベント( live or Webevents)などで総合的に構成されるものになってきた。

グラフを多用せよ

グラフはグラフであるだけで信憑性を演出できる。ただし、インフォグラフィック(infographics)のようなものは制作コストが跳ね上がる割に、不正確なプロパガンダになってしまうことが多いので、利用する意義は低い。総務省統計局などにあるパブリックドメインのエクセルデータを引用し、タブロー(Tableau )のようなBIツールでグラフ化したものをコンスタントに(記事として)出していったほうが、簡単に信用を獲得できるだろう。

コンテンツ連携について

いわゆるポータルサイトにフィード(提供)し、バックリンクを期待するのが今までは王道(=PVを増やす近道)だったが、先に述べたようにPVやUUがリードの獲得に直結しないので、大規模なサイトとコンテンツ連携するよりも、規模が小さくとも似たようなことを考えている他メディアと参照・引用関係で連携するのが安上がりで効果的だ。記事を作成する際も、隣接するメディアに転載される可能性を視野に入れて作成すると、作業がラクである。大規模サイトへのコンテンツ提供は彼らのメリットが大きい(→無料でコンテンツが増やせる)割に、提供者へのリターンは少ない、と肝に銘じておきたい。また、ソーシャルメディアにコンテンツの一部を出して「全部見たい(読みたい)場合はオウンドメディアへ」という連携をデザインするときに、唯一信用できるのはYoutubeだけ、である。その他のソーシャルメディアは(国産のものも含め)ユーザーのコンテクスト(文脈)を想像する力が弱い、と感じる。また、メディアを所有すると第三者広告が期待できる、と考える企業が多いが、可能性はほぼゼロ、と考えておきたい。むしろ特定の他企業とのパートナーシップのほうが現実的である。